『あかない』

第一章・ーあかないー

　家は気に入っている。誰にも邪魔などさせるものか。ゆっくりとした足取りで家を出ると、門扉を探して入ろうとする人影の襟首を掴み、少し先に在る踏み切りまで引き摺って行く。
　人影の顔は見えないが、どうせろくでもない輩だろうと、踏み切りの前に立たせて息を吐く。
　人影は浅ましくも憎らしく、未だに無駄な抵抗をしてくるが、そんな事はどうでも良かった。
　もうすぐここに、最終列車がやってくる。
　ほら、ちらちら明かりがやってくる。
　あの家は気に入っている。お前には不釣り合いなのだ。誰が入れてやるものか。誰がお前などに譲るものか。
　死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね！　お前は、電車に、轢かれて、死んで、しまえ！
　踏み切りの遮断機がゆっくり下りる。
　何やら泣き叫んでいるが、構うものか。お前は死ね！
　要らないから！