第1章

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とある日の夕暮れ。 この頃にしては珍しく、雨が降っていた。 天気予報でも言っていなかったため、傘を持っていなかった俺は仕方なく、古ぼけた大きな門の下で雨が上がるのを待っていた。 俺は、一人称から受ける印象とは裏腹に、どこにでもいるいじめられっ子だ。 気は小さいし、発表なんかは大の苦手。 少しでも人と話せるように、とアルバイトを始めたが、ここでもポジションは変わらず。 パシリなんて、もはや日常のワンシーンと化している。 そんなだから、こうして雨が降っていても、俺に傘を差し出してくれるような心優しい人はいない。 この門の下には、俺以外には誰もいない。 ただ、雨風にさらされたのか、所々赤い塗装がはげている大きな柱に、なぜかキリギリスが一匹とまっている。 ……いくらなんでも、キリギリスに話しかけようとは思わないが。 ところでこの門、やたら古いのにも関わらず、この辺りでは一番のメインストリートへの入り口となっている。 この門から通りを見ていると、それなりに人がいることは分かる。 ただ、人は一様に傘をさしていて、この古い門の下で雨宿り、なんてことは頭にないようだ。 それもそのはず、この門は「不吉な門」として有名だから、ここを通ろうとする人さえいない。 少なくとも、この門が入り口であるにも関わらず、 別の場所に新しい入り口を作ってしまうほどには この門は「不吉な門」として知られている。
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