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 「例えば、そうだな。そこにたんぽぽの花があるだろう」  「うん。あるね」  「その花はどうして咲いていると思う?」  「? どういうこと?」  「うむ。言い方が悪かったかな。この近くにタンポポの花はない」  「うみゅー? そうだったかな。そうだったかも?」  「山童の俺が言うのだから間違いない」  「山のことはなんでも知っているの?」  「ああ」  「すっごい!」  「話がそれたな。たんぽぽは種子が風にのって運ばれて土に落ち、芽を出す。そして、陽の光が当たることで成長していくんだ」  「ふむふむ」  「このたんぽぽは元はといえばお前がもち込んだものだ。お前の服にくっついていた種子がここに落ちた。落ちた場所は一日に数時間、木漏れ日が当たる場所だった。だからこいつはここまで育つことができた」  「へー!」  「これは偶然か? 運命か?」  「え。運命的だと思うけど………」  「実際は違う。お前は陽の当たるところが好きだ。なんといっても冬場はまだ寒いからな。そしてここの木は、常緑樹。冬でも葉をつける木が多い山だ。つまり、冬の間に木漏れ日が当たる場所は春になっても陽が当たる場所、ということだ。お前の服にくっついていたたんぽぽの種子は、そこにお前がよくいることによって、そこに落ちた」  「………………」  「けれど、たんぽぽ一本でもここまで複雑な因果関係が成り立つ。それを日常的に考えるのが億劫だから、人間は偶然という言葉を作った。それだけだと自分たちが怠けていると思ってしまうから、運命という響きのいい言葉も作った」  「うみゅぅ。難しいよ」  「まぁ、要するに、偶然なんてものはない。お前がその友達と仲良くなりたいのなら、その友達を、そして周囲の人間や出来事を、そして自分自身を、すべて客観的に見てみろ」  「そんなこと、できるの?」  「少なくとも、自然界に主観しか持たない生き物なんていないぞ。客観的に自分を見られないと、すぐに弱肉強食の流れに則って食べられてしまうからな」  「………頑張ってみる」  「ああ。頑張れ」  「お化けさん。応援しててね」  「当たり前だ。ここからになってしまうが、ずっと応援していてやる」  「………………。うぇひひひ」
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