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「兄ちゃん、兄ちゃん、こいつすっげえぞ!」
小さな手をいっぱいに広げて艶やかに黒光りするネプチューンオオカブトを嬉しそうに掲げている。
「アル坊すごいな。こんな大きなカブトムシ見たことないよ。」
本当にこんな大きなカブトムシをみたのは初めてだ。全長は僕の手より長いくらい。20センチくらいあるんじゃないかな。
滅多に人が入らない裏山の奥の森は、真夏の日差しもかすかに揺らめく程度でひどくどんよりとした空気が漂っていた。
小川のせせらぎも小鳥の囀りさえも遠い日に忘れ去られたようで、じっとしていると不安になってくる。
こんな場所だから天敵もいなくてずんずん大きくなったのかな。
「だよねだよね!これをみんなに見せたらびっくりするだろうなあ。兄ちゃんありがとう!」
暗く重い森の空気とは対照的に、アル坊の笑顔は周囲を暖かく照らし、森に飲まれそうな心を柔らかく包み込むようだった。
「いつもより遠出した甲斐があったな。でも、そろそろ帰らないと村に着くころには日が暮れちまう。不慣れな道だから迷ったら大変だ。」
「うん!そうだね。他にもたくさん捕まえたし、早く帰ってみんなに自慢しようよ!」
僕は、アル坊の小さな手をそっと握り締め、ぬかるんだ地面に足を取られないよう気を付けながら帰路に着いた。
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