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「今日もまた、露の生命がたくさんですねぇ。
いいじゃないですか。この中から、ひとり選べば良いだけの話です。
所詮接点のありえない、異国の人間、貧困と争いの地の人間です。
例え貴方様が選ばなくても、一時間後には寿命が尽きてしまうかもしれない、
そんな国の住人なんです。ひとりだけが事故で亡くなったりする訳じゃない。
ひとからげの中のひとり、そう考えれば済むことです。そう」
男は、川内の耳元へ唇を寄せて、囁いた。
「貴方様の所為じゃない」
川内は、新聞を手にした。
廃虚と化した建物の中に、数人の少女が写っている。
皆それぞれ、怯えたように身を寄せているが、瞳の光は強く、
生命力に満ちていた。
「お心が決まりましたら、いつでもお呼び下さいませ。
連絡先はその契約書に。なにぶん時間のない案件ですからねぇ。
すぐにでもお伺いさせていただきます。それでは」
男は丁寧に頭を下げると、ふっと姿を消した。
川内は残された契約書と新聞を前に、途方に暮れる。
脳内でぐるぐると、男の言葉が渦を巻いた。
男の指し示した国際面。
犠牲者の記事は今日も変わらない。
ただ国の名前と、人数が違うだけ。
淡々と、恐ろしい人数の犠牲を並べている。
その向こうに、個は決して見えない。
虚ろな視線でそれらを眺めながら川内は、
操られるように、携帯の、ボタンを、……押した。
おしまい
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