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おそらくわずかな休憩時間なのだろう。それを邪魔してしまって悪いことをしたなと思い、お邪魔してすみませんと通り過ぎようとした時、男性に声をかけられた。
「こちらで、吸われていったらいかがですか?」
「?」
「先程、和菓子屋さんの宴会をされていた方ですよね? お疲れ様でした」
男は佐知夫がもてなす側だったと気付いているらしい。まあ奥様のご実家だから和菓子店主側の面子は知っているのかもしれないが、若いながらも結構見ているものだなと感心する。すると、タバコの箱を差し出してきた。一本取りやすいように出ている。
実のところ、佐知夫は禁煙してからもう長い。だが、今は接待もうまく運んだ達成感で一本くらい吸ってもいいかな、という気分だった。
「ありがとう……」
男は佐知夫がくわえたタバコに火を点けると、仲居の女性と共にそこから離れていった。やっぱり急かしてしまったようだったなと少し申し訳なく思いながら、佐知夫は煙を吸い込んだ。
煙が肺にまわると、久しぶりの感覚に脳みそがクラクラした。動くこともできなくなって、しばらくそこでぼんやりしていると玉砂利が鳴り、振り向くと伊織がいた。
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