第1章

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 それから駅前のチェーンの居酒屋で慰労会となった。金沢らしい店というよりも、接待の緊張を皆解したいので、多少騒いでも大丈夫そうな店を総務課長の宮田がチョイスした。  後輩の宍戸と並んでビールを飲んでいると、営業一課長がこちらのテーブルにやって来た。 「いやー、ありがとう。おかげでうまくまとまってよかったな」 「お疲れ様でした。こちらこそありがとうございました」  宍戸と揃って頭を下げると、もう無礼講にしようと一課長は笑った。 「それにしても、菓子の差し入れはご主人、本当に喜んでいたよ」  聞けば、研究熱心なのも本当なのだが、実は趣味として和菓子を食べるのも大好きらしい。仕事もプライベートもどっぷりと和菓子漬けの人生ということだ。 「あれは、四宮さんがアドバイスをくれたので……私達は準備をしただけです」 「あれ? 四宮は新山くんのアドバイスのおかげだと言っていたのだけど……」  一課長は少しだけ不思議そうな顔をしたが、宍戸にビールを注がれるとそれを飲み干し、じゃあごゆっくりと言って、そそくさとテーブルを離れていった。 「一課長、ああみえてビールが苦手なんですよ」  他のアルコールなら何でも飲むらしいのだが、ビールだけは好きではないんだそうだ。とりあえずビールの制度が世の中からなくなればいいのにと本気で思っているらしい。一課長が離れて行った後、今度は宍戸の携帯が鳴る。
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