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「あっ……彼女だ……」
宍戸は途端にそわそわと落ち着かなくなった。宍戸の彼女は焼きもち妬きで定時コールがないと大変らしい。接待なのは話しているだろうが、その後も連絡がなくてやきもきしていたのだろう。
「こっちは適当に収めておくから、行ってこいよ」
「すみません……ありがとうございます」
佐知夫の言葉にわかりやすくほっとした宍戸は通話ボタンを押しながら店を出て行った。もうすぐここもお開きになるだろうからと会計を貰いにでも行こうと思っていると、伊織が近付いてきた。
立ち上がりかけた佐知夫を再び座らせると、自分も横に腰掛けた。そしてカバンを開けると中に入っているものをチラッと佐知夫に見せる。
「ん?」
「金沢のショコラティエですよ。佐知夫さんが喜ぶかなと思って時間を見つけて買ってきました」
この忙しい合間に、よくもそんなことができたものだ。佐知夫は感心するというよりは、呆れてしまった。
伊織がそこまでする意味はなんなのだろうか。聞けるはずもない事を思っていると伊織はぐっと顔を近づけてくる。
「食べてみたいと思いませんか?」
「そりゃあ、食べてみたいけど……」
すると伊織は悪巧みをするような笑みを浮かべた。
「宍戸に聞きましたよ。佐知夫さん、シングルルームなんでしょ。いびきがうるさいから」
「違うよ!」
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