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本当は総務課の三人だったら、課長をシングルにしてゆっくりしてもらい、宍戸と佐知夫をツインにするのが自然なのだが、課長は極度の怖がりでホテルの部屋でひとり、眠ることができないのだ。
総務課でそれは周知の事実なのだが、もちろんそんな理由を言えないから、佐知夫のいびきがひどいから佐知夫をシングルにするという建前になっている。
「でも、今回は宍戸をシングルにするっていう話もあったみたいですね」
「そうなんだ……てか、なんでそんなことを知ってるんだ?」
急に課長が自分と佐知夫でツインにしようと言い出したのだ。ある理由があって、やんわりと断っていたのだが、課長はなかなかしつこかった。
「あれ? でも課長が新山さんのいびきに耐えられないのではなかったでしたか?」
途中から話に入ってきた宍戸が無邪気にそう言って、何とかその場が納まったのだ。その事をあまり考えたくなくて、佐知夫は頭の角に追いやっていた。
「宍戸も口が軽いなあ」
「ま、とにかく食べてみたかったら、部屋に入れて下さい」
「……」
「だって好きなんでしょう?」
「!!」
「俺の誘いを断れないくらい、ボンボンショコラが」
「……」
「だから、いいって言って下さい」
うつむきながら頷くと、じゃあ後で伺いますねと伊織は去って言った。
まるで、ボンボンショコラが食べたいから、伊織に無理やりイエスと言わされているみたいだ。けれど、そもそも伊織を好きなのは佐知夫なのに……。妙な気分で会の支払いを済ませると、佐知夫はホテルへと戻っていった。
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