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伊織は金沢の街で買ったボンボンショコラと共に、ローションとコンドーム持参でやってきたのだ。それは、ご丁寧に以前佐知夫の部屋で使用したものと同じ銘柄だ。
「俺、結構ショックでした。澄ました顔して佐知夫さんもやることやってるんだなって。部屋に来る恋人がいるんですか?」
「……恋人は、いない」
自分のことは棚に上げて、勝手なことを言うもんだと思っていると、自然に顔が下を向いてしまう。そんな顔を見られるのが嫌で浴室に行こうとすると、腕をつかまれた。
「待ってますね」
弱々しく伊織の手を振り切って浴室に入った。それなのに結局は伊織の思うようにいそいそと伊織に抱かれる準備をしている。
シャワーを終えて部屋に戻ると、伊織がボンボンショコラとウイスキーロックを用意していた。ビジネスホテルの狭いシングルルームなので、佐知夫を椅子に座らせると、伊織はベッドの端に腰掛けた。
「あれ? 酒はひとり分?」
「俺は結構飲んでるから……佐知夫さんは強いから大丈夫でしょ。これ、チョコレートと相性がいいと聞いたので、一緒に買ってきました」
この男は、どこまでまめなのだろう。そしてそんなまめさを自分などに向けて、何になるというのだろう。
「佐知夫さん?」
何故彼女がいるのに、俺と寝るんだ? 聞きたくても、その答えを聞いたら立ち直れなくなりそうで聞くことも出来ない。そんなドロドロした思いを振り切るように、佐知夫は目の前のウイスキーを一気に煽った。
「わっ! そんな一気に……それにチョコが主役なのに……」
ウイスキーだけを飲み干した佐知夫に対し、少しだけ恨めしそうな顔をした伊織がいたずらっぽく怒る。
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