第1章

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「佐知夫さん、舌だして」 「?」 「ベ、ロ……うぇーってだして」  いわれたとおり口を開けて舌を出すと、その上にボンボンショコラを乗せられる。きついアルコールで焼けた舌の上で、ショコラが甘く蕩けた。プラリネが入っているのか、口の中で芳醇なナッツの香りが広がる。 「おいしい……?」  伊織が顔を近づけて、佐知夫の瞳を覗き込む。  すごくおいしいと言いたいが、丸ごとのショコラを放り込まれるとさすがにしゃべるのが難しくて、佐知夫はうなずくことしか出来なかった。  じゃあ味見をさせて、と伊織が近付いてきたのでショコラの箱を差し出すと、違うよとそれをテーブルに戻してしまう。 「佐知夫さん、目が赤い……すっごいやらしいんですけど」  ロックを一気に煽ったので、酒豪の佐知夫もさすがに視界が少しぼんやりしていた。近づく伊織の顔が、スローモーションのようだと思っていると、くちゅりと音がして口の中を犯された。  蠢く舌が佐知夫の舌に乗っているボンボンショコラを掠め取る。お互いの舌で押しつぶすように絡め合うと、ボンボンショコラはやがて姿を消した。ふたりの唇の隙間からこぼれた唾液は、茶色の筋になって佐知夫の顔を汚した。それを伊織はペロッと舐め上げる。 「おいしい……さすが古都で商売しているだけのことはありますね」  もう一個食べますか? と伊織に聞かれて吸い込まれるように頷くと、今度は伊織自身の口の中にボンボンショコラを入れて佐知夫に口づけた。 「んっ……ぅっ……」 「なんの味かわかりますか?」 「わかん、な……あっ」  すごくおいしいはずなのに、味なんてわからない。  ボンボンショコラがふたりの口腔内を行ったり来たりする度に、佐知夫の体もショコラと共に蕩けた。  四肢に力が入らなくなると伊織に抱きとめられ、ベッドに押し倒される。 「んっ……」 堪えていてもどうしても漏れてしまう声に、伊織は満足そうな表情を覗かせた。
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