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ホテルの窓。カーテンの隙間からうっすらと光が差し込んで、佐知夫は目を覚ました。動きがとれないのは伊織が佐知夫にのしかかるようにして眠っているから。
「……伊織くん」
「うーん」
「部屋、戻らなくて大丈夫なの?」
伊織は生返事をしながら、佐知夫にぎゅうと抱きついて首筋に顔を埋めてくる。
「大丈夫ですよ、佐知夫さんと地酒飲み比べて潰されたって言います……」
「でも契約に伺うんだろ……そろそろ起きないと」
「そうですね……でも出たくないなあ」
「遅れるから、早く行けよ」
無理やり伊織をひっぱって、浴室に押し込んだ。
「じゃあね佐知夫さん、また」
シャワーを終えた伊織は最後にギュと佐知夫を抱きしめた。
「あ……それからワイシャツ、きっちり上までネクタイ絞めないと、見えちゃいますよ」
「なっ!」
鏡を見ると首筋のワイシャツの襟で隠れるか際どいところに赤い斑点が見えた。
「慌てちゃって……かーわいい」
また、なんだろう。また会いたい? また寝たい? ……それでもこれで終わりではないのだなと、心のどこかでほっとしている佐知夫がいた。
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