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「新山主任には、いつもお世話になっているので」
完全に挙動不審になっていると女子社員に向かって、伊織がにこやかに答えた。
「ああ、主任ってとても面倒見がいいですもんね」
「そうなんです。でも新山主任が、世話になってるって思ってるなら、言葉じゃ足りないから形で示せって言うので、彼の好物を買ってきたんですよ」
「なっ……!」
女子社員はもちろんそんな話を本気にはせず、伊織の軽快なトークにキャッキャと笑っていた。
「そんなわけだから、これは新山主任へなんです、ごめんね。総務課へのお土産はまた改めて買ってきますからね」
「そんな、気持ちだけでいいですよ。主任のチョコレートも狙ってませんから安心してください」
佐知夫がキッと睨んでも伊織は全然こたえていない。飄々として、部屋から出て行くときにまた、佐知夫にしか聞こえない声で、ではまた夜に、と囁いた。
真っ赤になって振り返ると、伊織がニヤッと笑って去っていく。慌てて周りを見回すと課長の宮田と目が合った。
距離が少しあるので話の内容までは聞こえなかっただろうが、女子社員とは違って和やかな雰囲気ではない。
それに気付かないふりをして、佐知夫は自分の席につき、仕事を再開した。
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