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「今日は泊まっていってもいいですか?」
「毎回泊まってるじゃん」
「まあ、一応お伺い立てておこうと思って」
伊織との関係はなんだろうか。恋人ではない、ではセフレ? 伊織にとって自分は――何?
毎回考えても答えが出ることではないので、佐知夫は最近考えることを少しやめた。うしろめたさがないわけではない。でも抱き合っているときだけは、伊織が自分の事だけを見ていてくれるのではないだろうかと思える。
束の間でも、熱っぽく自分を求めてくれる伊織の姿は、まるで自分のものになったような気がする。
「ねえ、佐知夫さん」
「ん……?」
「総務課長って……結婚してますよね」
「してるよ。それがどうかした?」
「あの人、俺が総務課に行くと、いつもこっちを見てるんです」
「そりゃあ、用もないのに総務課に頻繁に通ってくる営業の人がめずらしいからじゃない?」
「用はありますよ。あなたに会いに行ってる」
佐知夫が伊織を好きだと認めたら、この関係は続かないと思う。伊織は自分に堕ちず、思い通りにいかない佐知夫に対して少し意地になっているだけだ。
「あの人と、何かありましたか?」
「なにかって?」
変なところに、伊織は鋭いみたいだ。佐知夫ですら忘れかけていた程、昔の記憶を呼び戻される。
「……昔入社してすぐの頃、本当に短い間、つきあっていたことがある」
「元カレってやつですか……あの人の事、好きだったの?」
「その時は……好きだったと思う」
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