第1章

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 実際のところ佐知夫も若すぎたし、今となってはよくわからない。  頼りがいのある素敵な先輩が、まさか自分の恋人になるとは思わなかった。つきあっているという事実よりも、自分が誰かと思い思われる関係になれたことに浮かれていたのかもしれない。  だが宮田にはそういう関係になってすぐに、佐知夫以外の影が見えた。それも女性。佐知夫はそこで悟ったのだ。女性が本命で、遊ばれているのは自分の方だと。 「かわいげがない。やっぱり男は男だよな。泣いて縋りでもすればかわいいのに」  別れ話を切り出した時、はじめは抗っていた宮田だったが、佐知夫の決心が変わらないとわかるや否や、そうのたまった。  男だって女だって、自分の好きな相手に本命がいて、自分は遊びだってわかったら傷つくものじゃないのか? 散々悩んで身を引こうとした。見苦しいところを見せたくなくて冷静に話を切り出したのに、かわいげがないと言われなければならない理由はなんだ?  どっぷりはまる前で、傷つくのも少しで済んだと思っているけれど、それから誰かとつきあうことはやめた。  ほんの気まぐれではじまり、すぐに終わった。ただそれだけだ。今は普通の上司と部下になれていると思う。  その数年後に宮田の結婚式に出席した時も、胸が痛んだりするわけではなかった。 「あの人が、この体を舐めまわしたなんて許しがたい」  伊織が背中からぎゅうっと佐知夫を羽交い絞めにした。足まで乗せて雁字搦めにしてくる。  なんだかその様子がかわいくて、佐知夫は伊織の交差する腕にそっと手をかけた。伊織はうなじから肩に顔を埋めてくる。
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