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資料室が近くなると、人も少なくなってゆく。西日がもうすぐ落ちそうな薄暗くなる一歩前の時間だ。
少し前を歩く宮田が振り返った。
「なあ、佐知夫」
数年ぶりの呼ばれ方に驚いて、うつむきがちだった首をあげた。そこには思わず息を呑むほど距離を縮めた宮田がいる。
「俺たち、やり直さないか」
「…………は?」
不測の事態に陥って、佐知夫は固まった。まったくの予期せぬ出来事に言葉を発することもできない。
「そんなに驚くこともないだろう。最近のお前、すごく色気がある。女の色気とは違ってそれがまたいい。おかしな気分になるよ」
「だって……課長は結婚していらっしゃるじゃないですか」
「不倫の恋、いいじゃないか。燃えるだろう? あの頃みたいに、いやあの頃以上に、お前のことを喜ばせてやるよ」
馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てて一蹴したいのをぐっとこらえる。
「すみません……言い方を間違えました。課長が結婚していようがいまいが、やり直すなんてありえません」
「そう……じゃあこちらも言い直そうか。俺が言ったことはお伺いじゃないよ。お前とつきあうっていう、報告だ」
「どういう意味ですか?」
「さっき……営業一課の四宮とここで一緒にいただろう」
「……えっ?」
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