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夜になって予約をしたイタリアンバールの前で立っていると伊織がかけてきた。
「すみません、遅くなっちゃって……直帰しようと思ってたんですけど、資料を統括部長に渡す為に、どうしても一度社に戻らなくちゃいけなくて」
「大丈夫、俺も今来たところだから」
「寒くなかったですか?」
息を弾ませる伊織の笑顔が眩しかった。
直帰を変更して統括部長へ直々に資料を渡すくらいだ、大きな契約が決まりそうなのかもしれない。伊織は着実にステップアップしている。自分のことなんかで、道を踏み外して欲しくない。
ふたりきりになるのは、今日で最後にしなければ。
「伊織くん」
軽く飲みながらの食事をして少し落ち着いた頃、佐知夫は切り出した。伊織はフォークを置いて、佐知夫を見る。
「もう、こういうのはやめよう」
「えっ? ちょっと待って、何?」
「……俺たちのこと」
伊織は何のことをいわれているのかわからない、というようにきょとんと瞬きをした。
「ふたりで会うのは、もうやめよう」
「…………なんで?」
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