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今度は腑に落ちないという様子で、佐知夫に詰め寄った。
「飽きたから」
「なんだよ、それ」
「伊織くんだって、男とやるのがちょっと癖になっていただけだろう」
「佐知夫さん……さすがに怒るよ」
伊織が顔をしかめた。一瞬怯みそうになるが、冷静を装う。
「もしかして総務課長と何かありましたか?」
「そうだとしても、伊織くんには関係ない」
「あの人は……結婚しているでしょ。そんなの不毛だ」
「……伊織くんだって一緒だろ」
「?」
「彼女がいるのに俺とこんなことして。結婚してる課長と違わないじゃないか。そもそも、男同士なんてみんな不毛だけどな。とにかく、そういうことだから」
「佐知夫さんっ!」
テーブルに万札を置いて、足早に店を出た。伊織の呼びかけにも振り向かなかった。
いつまでもこんな関係が続くとは思っていなかったけれど、終わりはあまりにも急だった。
こんなふうに、大切なものを突然取り上げられるのはきっとバチがあたったのだ、ずるずると関係を引き延ばしてしまった自分へ当然の報いなのだと――。
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