fragment

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まただ。またこの感じだ。いつもそうだ。俺の人生のはずなのに、決まって俺はその舞台で、必ずと言っていいほど、その主人公になれないのだ。 俺の名前は一瀬剣斗。親が剣豪ファンらしく、子供には必ず「剣」を入れたかったとこのことで。俺は結構自分の名前を気に入っている。でもそれは「剣」の方ではなく、「斗」の方なので悪しからず。 さて、今俺は会社のデスクからそっとある人物を見ている。 監視している。確実にストーカーだ。 上司という名のこの確固たるポジションから、ある人物をじっと見ている。 彼の名前は、片山集。何やらいろいろ面白いあだ名が思いつきそうだなと、フルネームを聞いた時にふと思った。 「みんな発音が違うんですよ。いかにも秋の特集とか夏限定特集とか?その発音で呼ばれちゃうんで、もっとみんな俺の名前に愛を持ってほしいんですよね。これじゃあ片山を特集してる感じになっちゃいますもんね。」 そうやって俺に自分の名前について目をキラキラさせながら言ってきた彼に、俺は、好意をそっと感じた。 別に上司だからって、それを武器にどうこうしたいってわけではない。 俺は“片思い依存症”なのだ。 これは俺が勝手に呼んでいるとてもロマンチックな病状である。 俺は、自分に好意をもたれた瞬間に、まるで初めてかのようなテンションで相手を見てしまう、俗に言う、熱しやすく冷めやすいタイプ…いや、熱することは熱するが、冷めたくないからなるべくこの好意に気付いてほしくないタイプである。 別にMというわけでもない。放置されるのが特別好きというわけでもない。 だた何か、こちらに好意が向くと、その恋自体を終了させてしまう傾向にあり、それはもうずっと続く俺の習慣なのである。 俺の恋は、結末を迎えない。 俺の舞台は、俺の舞台ではあるが、主人公は目に前にいる、目のキラキラしたこういう男が決まって演じてくれている。 それが自然だと、それが普通だと、それが一番良いのだと、俺は自分のデスクから彼の笑顔を見ながら、ふとそう思っていた。
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