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「片山君。」 「はい。」 「君は私に、呼び捨てで呼んでほしいのか。」 「呼んでほしいっていうか、自然とそう呼んでもらえる関係になりたいっていうか…」 「上司だから、呼び捨てになる時もあるだろうし、もし君がそうしてほしいのであればそうする。一応言っておくと、佐々木は俺の同期の弟なんだ。だから昔から少し親交があるから自然と呼び捨てになっているのかもしれない。それはあまり気にしていなかった。もし、君にそういう誤解をさせるのなら、佐々木にもちゃんとその…これからは佐々木君と呼ぶようにする。これでいいか。」 彼が少しだけその落ち着いた感情を含めた目線をこちらに向けてくれた。誤解が解けると、人はこうも簡単にそういう目線をくれるのか。勉強になるな。 「なら俺、課長が自然と俺の事呼び捨てで呼んでくれるように、たくさん付きまといますから!」 彼はそう言って、真っ赤なお弁当箱を持って自分のデスクへ戻って行った。 その耳が、お弁当箱に負けないくらい赤く染まっていた事は、俺だけの秘密にしておこう。 俺の恋は、結末を迎えない。 俺の舞台は、俺の舞台ではあるが、主人公は遠くで時計を見ながらパソコンを起動させているこういう男が決まって演じてくれている。 その舞台を俺は、今も降りれずにいる。 だから片思いは、やめられないのだ。 もしかしたら、両思いになれるかもしれない、その期待をギリギリで感じる事が出来るから。 そのギリギリを、俺は今日もこの位置から楽しんでいる。 そして今日も、いい天気だ。
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