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あー……、情けない。
コポポ…とゆるやかに流れる水音。
あの後、この静寂さに乱れた心を休めようと
取り敢えず遊佐の事務所にいつものように訪れていた。
本当は、彼女に全て伝えてしまえばいいのかもしれない。
そうすれば。
自分が本音で向き合えば、彼女も少しは此方を向いてくれるのかもしれない。
別に信頼して欲しいとか、そう重苦しい事を思ってるわけじゃないけど。
全部俺の言葉に本音がないというのも、段々息苦しさを感じてきたのは確かなんだ。
彼女の心が見えないし、掴めないことがもどかしい。
今こうしている間にも頭に浮かぶのは、
彼女が眉を寄せて俺を睨みつけている顔や、
凄まじい嫌悪感が募った表情で向けられる瞳である事が、やるせなくて。
アイツの事を考える時とは、全然違う瞳。
何もかも上手くいかない焦りと苛立ちで渦巻いていて、込み上げる感情と自分でも分からない感情が余計に俺を追い詰めてくる。
「なんだか状況が後退しているみたいだな。」
「…………」
ソファーにつっぷしている俺の横から
紅茶を飲みながら落ち着いた遊佐の声が耳を掠めた。
軽く凹んだ気持ちがこいつの声で、さらに堕ちていく。
「手を貸そうか、もう一人。」
寝転がっている俺に視線を送っている低く抑えた男の声に片眉をあげる。
「──いらねぇ。
別に後退なんかしてないし、ただ……」
「ただ?」
カチャっと紅茶をテーブルに置いて、俺の次の言葉を促す遊佐の反対側に寝返りを打った。
「……上手くいかないんだ、いつもみたいに」
「…………」
「なんでか、たまにどうすればいいのか分からなくなって。
苛々して……から回って、馬鹿みたいだなって思う」
「春、分かってるよな?彼女に…」
ハッと遊佐から続けられるであろう言葉を察して、背を向けていた身体を反転させた。
そして遊佐に真っ直ぐ視線を向けて言葉を被せた。
「分かってるよ。心配しなくたって、そんなんなんねーよ。
誰も好きにならないから、大丈夫だよ」
遊佐は俺の言葉に静かに目を伏せた。
「春、前に俺が言った事だけど、」
「…………」
「春はその意味、ちゃんと明確に理解出来てないと思う」
「ーーー」
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