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タンタンタン…、
階段を上る渇いた音がゆっくりと私に近づいてくる。
踵を力なく床につけて、
ドキドキと鳴り止まない爆発寸前の胸に手を当てて振り返った。
瞬間、見上げる様な角度で見つめている漆黒の瞳と視線が絡む。
「…………」
一瞬絡んだその瞳は
すぐさま逸らされて窓の外に向けられた。
何処か呆れたように溜息を付いて窓枠に手を掛け、私が見ていた方向と同じ方を見下ろしている。
久しぶりの聞き覚えある柔らかい声に
胸がきゅっと音を立てていた。
「何してたの、こんな所で」
「……このレポートを、教授に出しに」
……先輩を探していました…とは、勿論言えなかった…。
「───それで、さっきのは?
あんなに落ちそうな体勢で身を乗り出す程、
逢いたかった人が見えたりした?」
「……、ちっ!?、」
慌てて先輩に顔を向けて否定しようとした私を
ふっ、
と息を漏らすように先輩は小さく笑った。
「──俺の事、探してた?」
「……なっ、、違っ…!?」
ボンッと音が鳴ったんじゃないかって位、顔を赤面させながら首を振る。
今度は噴き出すように先輩は笑った。
「冗談なのに。
相変わらず素直で困るよ、高嶺は」
「……」
窓からの風が、私の前髪を揺らして隣に佇む先輩の前髪を揺らして通り過ぎていった。
さりげなく、まとめ髪のサイド後れ毛を耳に掛け、
緩む口元を隠すように俯いた。
…先輩と同じ風に触れている事が嬉しかった…
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