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「…………」
「…………」
ちらり、視線を向けると
先輩はまだテニスコートの方を見下ろしていた。
「ーーー最近、嫌な事されてない?」
「……」
少し低く、擦れた声。
先輩の親衛隊に突き飛ばされて軽く怪我をしたあの時からずっと、
先輩は私を気にかけて心配してくれている。
先輩と関わる事のなかったここ最近。
誰かに呼び出されて何かされるといった脅迫めいたことは無かった。
廊下や構内ですれ違いざまに舌打ちされたり、
変な事を言われたりとかは変わらずにあるけれど。
一々そんなのに構ってもいられないので、気にしていない。
痛い事とか、…されないなら問題ないから。
「ないですよ、何にも」
ニッコリ笑って言うと、
先輩は「…そっか」と返して目を細めた。
窓から吹き込む微かな風。
目線は窓の外に向けたまま、先輩は襟足に手を伸ばして息をついた。
静かな踊り場。
ドキドキと速度を上げる心臓音。
胸の前、両腕で抱えた課題の束に自然と力が入っていた。
…
…
「───高嶺、」
そう私の名前を口にして、先輩は壁に背を預けて薄暗い天井を仰いだ。
深い溜息を吐き出して、
私への態度を急に翻した理由と
過去の話を話してくれた。
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