好きだよ…

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鬼瓦部長に可愛がって貰っていた関口先輩は、 部長のお嬢様と婚約していたというのは…社内でも有名な話だったけれど。 婚約した後も、どうしても付き合ってた以前の彼女の事が忘れられなかったのだと…重々しい口調で、私に言った。 「そしたらある日、その彼女といる所を見られてさ、 ……掛川って奴に」 「………」 僅かに台詞に詰まりながらも、言葉を続ける先輩に 重く息をついて、…胸を抑えて呼吸を整えながら携帯電話に耳を寄せる。 「アイツは俺の弟なんかじゃないんだ、…赤の他人。 部長に…娘さんを裏切ってる事を知らせるって揺すられて… あの時、俺…怖くてさ。 部長を裏切っといてあれだけど、 お嬢さんの気持ち…弄んでるし、彼女からも…離れらんないし。 全部自分の意思でしてる事なのに、 今の現状が壊れるのが怖くて、壊したくなくて、…」 「……」 頭が真っ白になって、先輩の声が遠ざかる。 力なく開いて何かを発しようとした口からは、何も…言葉が出てこなかった。 「バラされたくなければお前に、… 高嶺の家に…居候出来るように仕向けてくれって。 俺の弟って事にして、こじつけろって。 別に高嶺に手を出すとかじゃないし、変な事をするつもりはないから、 ただ俺の言う通りにしてくれればいいんだって…言われて。 あの時は…自分の立場を守るのに必死で、アイツの言う通りにした。 自分の弟だなんて嘘ついて、…お前を…売ったんだ。 それからすぐに中国に出張で…中々連絡出来なかったから気になって、 心配してただなんて…今更…偽善だけど。 ごめんな、…本当。 謝って許されないけど、それでも謝らないと…って、ずっと思ってた。 本当、お前に会わす顔…ないけど。 そっちに戻ったら殴っていいから…俺、………」 まだ先輩の声が…耳元で響いている気がしたけれど、 その時の自分にはもう、何も…聞こえなかった。 笑いたいような…泣きたいような… 心が一瞬…宙に浮いて、一気に奈落の底に落された気分だった。
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