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「おにいちゃん」
また、あいつが泣きながら俺を呼ぶ。
園では「あーちゃん」と呼ばれている、産まれたての犬か猫みたいに頼りなく小さい子ども。
俺なんかより他のやつらのほうが優しいだろうに、なぜだか俺に懐いてしまった。
ニコリともしない俺の学ランの裾に取り縋り、目玉を涙で一杯にして見上げてくる。
かわいくない、と言えば嘘になる。
けれど、懐かれたところで、俺はコイツの母親の代わりになどなれないし、励ましの言葉の一つも浮かばない。
自分のことだけで、他人を構う余裕なんてない。
ここは仮の住まいなんだから、馴れ合いなんて意味のないことだ。
一刻も早く、この世界から飛び出したかった。
早く自由になりたい。早く、早く……。
ひとりで何でも決めて、誰の手も必要とせず、生きていきたい。その先に何があるのかは、全くわからないけれど。
そんな風に、ずっと思っていた筈なのに。
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