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「本日はよろしくお願いします。」
頭を下げ合い、相手を見れば少しやつれた顔がうつった。
彼女は今日の依頼者。
恋人役をして欲しいとうちに依頼があった。
「今回は女性同士で付き合ってるという設定でよろしかったですか?」
「・・はい。すみません、変な事を依頼して。」
「いえ、同性のは初めてですが、ご要望として恋人役は多いですよ。詳しくお話し聞かせてください。」
1口に恋人役といっても色々ある。
まだ付き合いたてなのか、結婚前提なのか、不仲なのか。
「前、働いていたお店へ恋人として一緒に来店して欲しいんです。」
「そこで、どうしたらいいんですか?」
「ただ、仲良く、そうですね・・とても私を好きな感じで見て回って欲しいです。」
「それ、だけですか?」
少し拍子抜けしてしまった。
大概は恋人役をする場合、パーティーや合コン、家族や友人と会うなどもっと交流的なものが多い。
簡単過ぎるミッションに不思議そうにすれば、依頼者、渚は悲しそうに目を伏せた。
「私、前の会社で身も心もボロボロになって。社長には家族風呂に一緒に入らないと遠くへ転勤させるって言われるし、上司からは男にモテないなら俺がやってやるやらセクハラは毎日で、ストレスで体調崩したら同期からも邪険にされて・・。ノルマに足りないと多額の罰金払って、本当にブラック会社で散々でした。」
だから、こんなにもやつれてしまったのか。
そっと生気のない頬を撫でれば、彼女は恥ずかしげにはにかんだ。
「そんな所辞めて、正解ですよ。」
「ええ、本当に。」
その儚い笑みに、ドキリとした。
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