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恵麻もシュークリームのパウダーシュガーを口の周りにつけたまま、心配そうにおろおろしている。華子が絵画棟裏のパネルの裏を見ながらユーキくんに聞く。
「ユーキくんの作品がないとユーキくんはどうなるの?」
ユーキくんはふたたび軍手をつけた手で汗を拭う。
「僕は卒業できるかどうかわかりません」
ユーキくんは口元に手をあてて、ぼうっと言った。
「卒制展に作品がないまま卒業した先輩を、僕は知りません」
「じゃあ、就職は」
華子が立て続けに聞く。
「卒業できない場合は、取り消しでしょうね」
ユーキくんはもう軽く笑うこともできないようだ。
十.未来(2)
結局、その日は夜九時まで探し続けた。間違えて他の学科の学生がどこかに持って行った可能性まで考えて、もはや、絶対に通らないであろう金工棟まで行った。どこを探しても、ない。ユーキくんの気持ちが詰まったあの青。捜索時間が長くなればなるほど、皆、無口になっていった。寒さも厳しくなってきた。薄暗い闇の中で、白い軍手だけがちらちらと見える。
「はい。みんな、やめましょう」
ユーキくんが大きく息をはいて言った。
「おい、でもそれじゃあ」
瑞樹さんが言いかけるのを制して、ユーキくんはきっぱりと言った。
「僕、一人で探します。寒いし、展示の前にみんなで風邪をひいたんじゃ、誰が受付と看視やるんですか」
「俺も手伝うよ」
瑞樹さんは、その場を離れようとしない。
「みんなは帰って。ユーキの作品を探すのは俺にまかせて」
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