第一章:白ブラウスの「フランス人形」

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それから、自分も大人になり、結婚し、子供も生まれた。 ママの亡くなった年に近づくにつれ、遠い異邦で死病に犯され、幼い我が子を残して息絶えていかなくてはならない無念を想像すると、見舞いに来た六歳の私には最後まで笑顔で接してくれた姿に痛ましさを覚えるようになった。 同時に、あるいは自分もそうなるのではないかという恐怖の入り混じった感慨に襲われるのだ。 ――もうすぐ、おうちに帰るから。 そう言って私を病室から送り出した数日後、ママは白い箱に収められた骨になって家に戻ってきた。 人は死ぬとそのまま墓石の下に埋められるのではなく、その前に焼いて骨にして、まるで高価なプレゼントのように綺麗な白い箱に入れられることをその時初めて知った。 ママはそんな風に日本式に葬られたのだ。 白ブラウスのフランス人形の姿が滲んできたので、アルバムを閉じて、自分の目も閉じる。 よりにもよってコーヒーをブラックで飲んだことを後悔したが、目を閉じていれば、直に意識は薄れてくるはずだ。 眠れなくても、少し寝たふりをしよう。 私だって、これ以上、挙動不審な乗客にはなりたくない。
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