第十二話 『ワタシ達のなつやすみ!』

8/19
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/650ページ
「へぇ...この峠ってどっちから走っても最初は...上りなんだ...」 柳峠の特徴の一つ、どちらからスタートしても前半はヒルクライム、後半はダウンヒルとなっている。 半分を過ぎた所から突然身体が浮き上がる程に下り坂へと切り替わり、極端に上を見る目線から一変して真下の目線となる。 この勾配の差に加えて道幅も基本的に狭く路面も荒れているとなれば、確かに攻めるのは危険すぎる場所だろう。 怖い思いをさせちゃっているかな?と、咲華はチラリと紬の姿を見るが若干顔が強張っているものの、騒いだり泣いたりはしていない。 「紬...いきなり走っちゃったけど...怖くないの...?」 急勾配の下りコーナーを遅いスピードのドリフトで進入して行く。 コース確認なので全力では走れない。 「...ちょっとだけ怖いけど...咲華ちゃんが運転してるでしょ?だからそこまででもないよ。なんか安心しちゃう...車ってこんな動きできるんだねっ...」 てっきり泣き叫びながら気を失うかもしれないと思っていたが、杞憂だったらしい。と言うよりコーナーをドリフトする度に顔の強張りが消えて若干嬉しそうだ。 「そっか...ありがと...車はいいよ...楽しい...」 いつだって車の話をする咲華は楽しそうと感じていた。 自分は詳しくないが話を聞くのは好きなんだなと。 そして紬は、咲華が楽しそうに車を操作する表情を見て決意した。 ―――やっぱり...私も車買うことに決めた...と 「スゴイですこの峠。スゴイダウンヒルできそうな気がしますっ!」 セシルは急勾配の下りに喜んでおり、後半は突然エリーゼを加速させフェイントモーションからスタートするドリフトを連発していた。 後ろで走る咲華は急加速するエリーゼに対抗しスピードを上げて追うが、まだこれは一本目である。よくもまあ先を知らない状況+路面が荒れているにも関わらずあんな走りができるものだ... 紬は生き生きと走る水色のマシンが繰り出す動きに唖然としていた。
/650ページ

最初のコメントを投稿しよう!