第2章

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 「それは信じている。望んでは逃げないだろう。だが連れ去られたら?」  彼は頭を振った。  「連れてはいけない」  「じゃあ勝手について行く」  「どうやって? 歩いてか? おまえが考えてるより町はずっと遠い」  ルシアは可愛らしい笑みを浮かべた。彼女に可愛いは似合わない、その言葉では生易しすぎるから。だがその表情は紛れもなく可愛い。  彼は警戒した。  「何を企んでる?」  「私、乗馬を習う」  「わたしは教えられない、仕事があるからな。それを言うなら御者や使用人も無理だぞ」  「結構よ。ベンが教えてくれるもの」  息がつまった。 「どこで―どこでベン…ベネディクトに会ったんだ」  そのとき何かが鼻をついた。  「おまえと違うにおいがする」  彼女は目をそらした。  「あなたのにおいじゃないの、馬に乗ってたんでしょ?」  「おまえは馬が苦手なようだから、先に水浴びした―」 目を細めてルシアの髪に手をやり、物的証拠を摘み上げた。  「これは何だろうな?」 ルシアの目が大きく見開かれ、赤い舌が覗いて唇を湿らせた。  「ええっと…藁、かしら」  彼の頭はフルスピードで回転していた。  指先で藁を捻りながらルシアを睨みつけた。 「ベネディクトに抱かれたのか? 馬の乗り方を教えてもらうかわりに体を差し出したのか?」  「まさか」  「言うことはそれだけか? 正直に言った方がいいぞ」 ルシアはため息をついた。  「私が明日も厩に行ければ、教えてくれるそうよ」  「あいつが何の見返りも求めずにか? まさか」 ルシアの口調を真似た。  「実の弟を疑うというの?」  「証拠がここにあるからな」  藁を掲げて見せた。  「たしかに彼はキスした」  疑わしげに黙って表情を探っていると彼女は言い足した。  「胸も触った。でも本当にそれだけよ」  嫉妬の炎が胸を焦がした。ルシアにほかの男が覆い被さっていたと考えただけで、そいつを殺してやりたいと思った。実の弟であろうがなかろうが。  「無理やり押し倒されたのか? もしそうなら―」  「私、抵抗しなかった。最初はあなただと思ったから。だけど、何だか違ったの…触れられても、あなたにされたときみたいに感じなかった―ねぇ、ちょっと触ってみて」   ルシアが彼の手を掴んで胸に押し当てた。  彼の手は自分の意思とは関係なく、その丸みを愛で頂をこすった。
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