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「それは信じている。望んでは逃げないだろう。だが連れ去られたら?」
彼は頭を振った。
「連れてはいけない」
「じゃあ勝手について行く」
「どうやって? 歩いてか? おまえが考えてるより町はずっと遠い」
ルシアは可愛らしい笑みを浮かべた。彼女に可愛いは似合わない、その言葉では生易しすぎるから。だがその表情は紛れもなく可愛い。
彼は警戒した。
「何を企んでる?」
「私、乗馬を習う」
「わたしは教えられない、仕事があるからな。それを言うなら御者や使用人も無理だぞ」
「結構よ。ベンが教えてくれるもの」
息がつまった。
「どこで―どこでベン…ベネディクトに会ったんだ」
そのとき何かが鼻をついた。
「おまえと違うにおいがする」
彼女は目をそらした。
「あなたのにおいじゃないの、馬に乗ってたんでしょ?」
「おまえは馬が苦手なようだから、先に水浴びした―」
目を細めてルシアの髪に手をやり、物的証拠を摘み上げた。
「これは何だろうな?」
ルシアの目が大きく見開かれ、赤い舌が覗いて唇を湿らせた。
「ええっと…藁、かしら」
彼の頭はフルスピードで回転していた。
指先で藁を捻りながらルシアを睨みつけた。
「ベネディクトに抱かれたのか? 馬の乗り方を教えてもらうかわりに体を差し出したのか?」
「まさか」
「言うことはそれだけか? 正直に言った方がいいぞ」
ルシアはため息をついた。
「私が明日も厩に行ければ、教えてくれるそうよ」
「あいつが何の見返りも求めずにか? まさか」
ルシアの口調を真似た。
「実の弟を疑うというの?」
「証拠がここにあるからな」
藁を掲げて見せた。
「たしかに彼はキスした」
疑わしげに黙って表情を探っていると彼女は言い足した。
「胸も触った。でも本当にそれだけよ」
嫉妬の炎が胸を焦がした。ルシアにほかの男が覆い被さっていたと考えただけで、そいつを殺してやりたいと思った。実の弟であろうがなかろうが。
「無理やり押し倒されたのか? もしそうなら―」
「私、抵抗しなかった。最初はあなただと思ったから。だけど、何だか違ったの…触れられても、あなたにされたときみたいに感じなかった―ねぇ、ちょっと触ってみて」
ルシアが彼の手を掴んで胸に押し当てた。
彼の手は自分の意思とは関係なく、その丸みを愛で頂をこすった。
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