第2章

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 「んんっ―やっぱり違う。私、あなたじゃないとだめみたい」  声が出せるかわからなかったから、唾を飲み込んでから言葉を押し出した。  「…そんなことを言ったって、罰は与えるからな」  「本当に? じゃあ今日はしてくれないの?」  「おまえは今日、一人でほっつき歩いていたんだろう。厩まで辿りつけたんだ、体を交えるくらい何ともないだろう」  「じゃあ―」  「でもしない。傷を癒やせ、ルシア。わたしの激しい行為にも耐えられるように」  「明日はしてくれる?」  「ああ、明日なら」  「じゃあ明日ベンのとこに行ってもいい?」  「だめだと言っても行くし、見張りをつけても目を盗んで抜け出すし、まったく世話が焼ける」  「それは行ってもいいってこと?」  「部屋を見張らせるのは意味がないとわかったからな。それに抜け出すために、おまえが何をするかわかったもんじゃないし。それならどこにいるかわかっている方がいい」  「私もその方がいいと思う」  満足そうなルシアを横目で見ながら付け足す。  「何も起きないよう、サミュエルにおまえ自身を見張らせる」  ルシアが鼻にしわを寄せ、あからさまに嫌そうな顔をした。 「彼は私のことを嫌ってるのよ。お互いに神経がすり減っちゃうわ」  サミュエルのルシアに対する態度には、彼女にそう思わせるに足るものがある。しかしサミュエルほどわたしに忠実な男はいない。子犬のような見張りではルシアの安全―ひいてはわたしの心の平安―を確保できない。  そう言いながらもルシアはため息をついて肩を落とした。 「仕方ないな。あなたがどうしてもと言うなら」  「どうしてもだ。彼は唯一の友だから、おまえを任せても安心だ」  「ふーん」  彼女は上掛けに目を落とし、生地の皺を伸ばした。  「どうした?」  「私は友達じゃないの? 私だってあなたに…いえ、いいの。気にしないで」  ああ、今までこんなに喜びを感じたことがあっただろうか。  「そうだな、おまえも友達だ。それよりも恋人の方が好ましいんだが」  「友人兼恋人ね。あれ、恋人兼友人かしら」  「どっちでもいいさ。おまえはここに、わたしの隣にいるんだからな」  ルシアが胸にもたれかかってきた。 「寝るとき、抱いていてくれる?」  「もちろんだとも」  「何を考えている?」
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