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ルシアはミッチェルの裸の胸から顔を上げた。彼は寝るときはいつも素っ裸だった。今日は彼に丸め込まれてルシア自身も何も身につけていなかったから、彼の熱い体に触れる素肌がむずむずする。
「あなたがそうしているのには訳があるんだろうって」
たこの出来た手のひらに背中を撫で下ろされてその部分があわ立った。
室内にこもって事務仕事ばかりしているのなら、こんな風に手は荒れたりしない。彼が町の人々のように熱心に外で働いている証だ。
「何のことだ?」
「奴隷のこと。私は人間があんなふうに扱われていいとは思わない。私のいたところでも高貴な血だとか、卑しい血だとか差別する人がいたけど、どんな人もみんな同じなの。だけど人が人を所有することを、王であるあなたが認めてる。それにはあなたなりの考えがあるのよね?」
彼の心臓は力強くリズミカルに打っている。
「おまえには見せたくなかった」
「どうして? 私は不条理なことを知らない小娘なんかじゃない」
彼の手が尻まで下りてきて、片方のふくらみをそっと握る。
「そうだな」
「奴隷を全て買い取ってはいけないの? あそこにいるよりも不幸にはならないでしょ」
「わたしも彼らがあんなふうに扱われていいとは思っていない。だがこの国を支えているのは勤勉な民たちだ」
ああ、そうか。彼が何を言いたいのかわかる。
奴隷を宮殿に住まわせることにしたら、誰も働かなくなってしまう。いったん奴隷に身を落とせば、待っているのは衣食住の約束された王宮暮らしだもの。
「そうね…。そもそもどういった人が奴隷になるの?」
「さらわれた者や、親が奴隷だった者。仕事がない者もいる。誰かに所有されれば、少なくとも食事にはありつけるからな」
悲惨だ。奴隷の子どもは奴隷だなんて、生まれたときからその子たちの運命は所有者に委ねられている。決して抜け出すことの出来ない負の連鎖。
そして食べるのに困るからと言って、自ら誰に買われるともわからない立場になるなんて。相手は人間を人間だとも思わない腐りきった奴らばかりなのに。
「あなたは王だから、もしも変えたいと願えば―」
彼の手が離れた。
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