第2章

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 愛する人を腕に抱いている今はとても幸せな気分だった。たとえあとで昨日の罰が待っているとしても。  ミッチェルはしばらくすると目を覚ました。彼は涙を見せてしまったことを恥ずかしがるだろうと思ったが、目が合うとゆっくりと口角を上げていき笑みを形作った。  「おまえがいるとよく眠れる」  擦れた声で囁かれるだけで、何でも言うことを聞きたくなってしまう。  「ならずっといてあげる」  ふっと笑って彼は身を起こし伸びをした。朝日を浴びて筋肉が黄金に輝いている。  「いつまでも寝ているわけにはいかない、仕事がある。だがおまえは寝てろ」  「眠くない」  「なら横になってるだけでいい」 彼はベッドを出て洗面の用意を始めた。  「そんなの退屈よ」  「じゃあ賭けをしよう。おまえがひとりでトイレに行けたら、今日は寝てなくていい。出来なければ、わたしの言うことを聞いてろ。いいな?」  彼は自信ありげに振り返った。  出来ないと思ってるんだ。バスルームまでほんの十五歩程度だ。歩きたての赤ん坊じゃあるまいし、出来ないはずがない。  ベッドから脚を垂らし立ち上がった。と思うと脚がぐらっとして倒れそうになる。ミッチェルは用意周到に脇に控えていたから、私の体を抱きとめると安全なベッドの上に戻した。  「わたしの勝ちだ―トイレに行くか? 抱いていってやろう」  「うるさい。何で立てないのよ! 毒を盛ったの?」  ミッチェルはニヤニヤしながら見下ろしてきた。 「まさか。体を交えると普段は使わない筋肉を使うからな。一種の筋肉痛みたいなもんだよ―昨日は激しかったし」  「勝つとわかってる賭けをやって楽しいわけ?」  「負けるよりはな。おまえなら気力だけで辿り着くかとも思った―で、トイレはいいのか?」  生理的欲求には逆らえない。 「行く」  ミッチェルに運ばれ便座の上におろされた。  「終わったら呼べ。外にいるから」 彼はバスルームの戸を閉めた。  小さな心遣いに感謝した。親密になる前なら排泄の間、嫌がらせのために目の前にいるはずだと考えただろうが、ミエルバの言うとおりミッチェルはとても優しい人だ。  ベッドに戻されると彼の残り香に包まれた。  「わたしは仕事に行くがミエルバを呼んでやる。それから部屋の前には見張りを立てておくから大人しくしてろよ。おまえの部屋まで抱いていってもいいが、夜にはまたここに連れてくるんだから―」
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