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愛する人を腕に抱いている今はとても幸せな気分だった。たとえあとで昨日の罰が待っているとしても。
ミッチェルはしばらくすると目を覚ました。彼は涙を見せてしまったことを恥ずかしがるだろうと思ったが、目が合うとゆっくりと口角を上げていき笑みを形作った。
「おまえがいるとよく眠れる」
擦れた声で囁かれるだけで、何でも言うことを聞きたくなってしまう。
「ならずっといてあげる」
ふっと笑って彼は身を起こし伸びをした。朝日を浴びて筋肉が黄金に輝いている。
「いつまでも寝ているわけにはいかない、仕事がある。だがおまえは寝てろ」
「眠くない」
「なら横になってるだけでいい」
彼はベッドを出て洗面の用意を始めた。
「そんなの退屈よ」
「じゃあ賭けをしよう。おまえがひとりでトイレに行けたら、今日は寝てなくていい。出来なければ、わたしの言うことを聞いてろ。いいな?」
彼は自信ありげに振り返った。
出来ないと思ってるんだ。バスルームまでほんの十五歩程度だ。歩きたての赤ん坊じゃあるまいし、出来ないはずがない。
ベッドから脚を垂らし立ち上がった。と思うと脚がぐらっとして倒れそうになる。ミッチェルは用意周到に脇に控えていたから、私の体を抱きとめると安全なベッドの上に戻した。
「わたしの勝ちだ―トイレに行くか? 抱いていってやろう」
「うるさい。何で立てないのよ! 毒を盛ったの?」
ミッチェルはニヤニヤしながら見下ろしてきた。
「まさか。体を交えると普段は使わない筋肉を使うからな。一種の筋肉痛みたいなもんだよ―昨日は激しかったし」
「勝つとわかってる賭けをやって楽しいわけ?」
「負けるよりはな。おまえなら気力だけで辿り着くかとも思った―で、トイレはいいのか?」
生理的欲求には逆らえない。
「行く」
ミッチェルに運ばれ便座の上におろされた。
「終わったら呼べ。外にいるから」
彼はバスルームの戸を閉めた。
小さな心遣いに感謝した。親密になる前なら排泄の間、嫌がらせのために目の前にいるはずだと考えただろうが、ミエルバの言うとおりミッチェルはとても優しい人だ。
ベッドに戻されると彼の残り香に包まれた。
「わたしは仕事に行くがミエルバを呼んでやる。それから部屋の前には見張りを立てておくから大人しくしてろよ。おまえの部屋まで抱いていってもいいが、夜にはまたここに連れてくるんだから―」
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