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「忘れるわけがないだろう。おまえがついていながらルシアに怪我をさせたことを」
「ああ、後悔しているさ」
「言うことはそれだけか?」
「ちょっと、ミッチェル! ベンのせいじゃない。私が無理を言って、一人で乗ってたんだから」
「それはつまり、ベネディクトはそばにいなかったということか?」
ルシアは何度も頷き、身を起こそうとした。
「そう。ねっ? 彼は悪くないでしょ」
「じっとしてろ、ルシア」
彼女をソファにおろして、ベネディクトと向き合う。
勢いよくひいた拳をベネディクトの左頬にぶつけた。ベネディクトははずみでキャビネットにぶつかり、上にのっていた花瓶が派手な音を立てて割れた。
「ミッチェル! なんてことを」
ベネディクトはゆっくり立ち上がると、切れた唇から出た血を拭った。
「歳をとって動きがにぶったんじゃないか?」
今度はベネディクトが拳をぶつけ、彼が床に倒れた。
「二人ともやめなさい! 今すぐやめないとぶつから!」
ルシアはソファの上で怒りに頬を染めている。
ふと、いざというときに悲鳴を上げるだけの女じゃないことを嬉しく思った。
体を起こして、数回、口を開け閉めする。長い間この痛みを忘れていた。
ベネディクトが差し出した手をとり、立ち上がる。
「すまなかった…ミッチ」
苦しげな口調から今回だけのことを言っているのではないのだとわかった。
「いや、わたしの方こそ悪かった。許してくれるか、ベン?」
お互い相手の目の中に自分自身を見た。同時にふっと相好を崩すと、離れていた月日を埋めるように強く抱き合った。
「男ってわけがわからない。さっきまで殴り合ってたかと思うと、急に仲良くなるんだもの」
ルシアがあきれた顔でこちらを見ている。
「わけがわからないのは女のほうだ。自分の倍も重い男をぶつぞと脅すんだからな」
「だが機嫌の悪い女ほど怖いものはない。そうだろ、ミッチ?」
「ああ、まったくだ」
彼女は目を細めて睨みつけている。
「二対一なんて卑怯よ」
だが小さく肩をすくめた。
「まあ、今回は二人が仲直りできたんだから大目に見てあげる。わたしも怪我をした甲斐があったってものよ、大した傷じゃないし」
「どうしたベン?」
彼の顔から笑みが消えている。それは軍隊時代、任務についているときの見慣れた表情だ。
「シアの怪我は仕組まれたものかもしれない」
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