第3章

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 「何だって?」  ベンが腕を組んでデスクの角に尻を乗せた。 「シアの悲鳴を聞いて駆けつけたとき、地面に鞍が落ちていたから、最初はしっかりと腹帯を締めなかったんだろうと思ったんだ」  「ちゃんと締めたわよ」  ルシアはムッとした顔をしている。自分の非だと思われていたと知って面白くないのだ。  「まあ、聞け。ベンは『最初は』と言っただろう」  「続けて」  おっと、ルシアは今、男にとって一番怖いものになっている。  「だがシアは気を失っているし、とにかく医者に診せるのが先だったからな」  「気絶なんかしてない」  ベンは眉を動かしたが聞こえないふりをして話を続けた。 「でだ、サミュエルに医者を呼びに行かせたあと、医者がシアを見ている間に、馬具を納屋の奥にしまいこもうと思ったんだが―」  「あら、乗馬はやめないから。落馬したらすぐ馬に乗れって言うでしょ」  しかめた顔をルシアに向けた。  「二人してそんな顔しないで」  つまりベンもわたしと同意見だということだ。  「その件はまたあとで話し合おう。今はベンが故意に危害を加えられたと考える理由が知りたい」  「ああ、腹帯がちぎれていた。新しいものだから切れるのはおかしいと思って調べてみると、切れ端がほつれていなかった」  「どういうこと?」  ルシアの隣にどさりと腰を下ろす。  「誰かが刃物で切込みを入れていたということだ」  「でも、なんで?」  素っ頓狂な声も、その表情もわけがわからないといっている。  ルシアの足を膝の上にのせて足首に巻かれた包帯に指先で触れる。  そう、なぜなんだ? そこが解せない。  仮にルシアを邪魔に思う者がいたとして、こんな不確実な方法をとったのはなぜだ。怪我をさせるのが目的だったのか?  「わからない。だが必ず報いを受けさせる」  「見て、見て! あたしかわいい?」  ミッチェルの前でルカはくるりと回ってみせた。  ルカの頭ごしに目が合うと、彼は困ったように小さく笑った。  「ああ、かわいいよ。妖精みたいだ」  ルカは何度も飛び跳ねて、ピンクのリボンで縛られたポニーテールを揺らしてみせた。  「シアがしてくれたんだよ」  ルカは子どもらしい軽やかな笑い声をあげながら、新たな自慢相手を求めて駆けていった。  「よほど嬉しいんだな。かわいいかと三度もきかれたよ。次に尋ねれたら、もう例えるものが思いつかない」
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