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「何だって?」
ベンが腕を組んでデスクの角に尻を乗せた。
「シアの悲鳴を聞いて駆けつけたとき、地面に鞍が落ちていたから、最初はしっかりと腹帯を締めなかったんだろうと思ったんだ」
「ちゃんと締めたわよ」
ルシアはムッとした顔をしている。自分の非だと思われていたと知って面白くないのだ。
「まあ、聞け。ベンは『最初は』と言っただろう」
「続けて」
おっと、ルシアは今、男にとって一番怖いものになっている。
「だがシアは気を失っているし、とにかく医者に診せるのが先だったからな」
「気絶なんかしてない」
ベンは眉を動かしたが聞こえないふりをして話を続けた。
「でだ、サミュエルに医者を呼びに行かせたあと、医者がシアを見ている間に、馬具を納屋の奥にしまいこもうと思ったんだが―」
「あら、乗馬はやめないから。落馬したらすぐ馬に乗れって言うでしょ」
しかめた顔をルシアに向けた。
「二人してそんな顔しないで」
つまりベンもわたしと同意見だということだ。
「その件はまたあとで話し合おう。今はベンが故意に危害を加えられたと考える理由が知りたい」
「ああ、腹帯がちぎれていた。新しいものだから切れるのはおかしいと思って調べてみると、切れ端がほつれていなかった」
「どういうこと?」
ルシアの隣にどさりと腰を下ろす。
「誰かが刃物で切込みを入れていたということだ」
「でも、なんで?」
素っ頓狂な声も、その表情もわけがわからないといっている。
ルシアの足を膝の上にのせて足首に巻かれた包帯に指先で触れる。
そう、なぜなんだ? そこが解せない。
仮にルシアを邪魔に思う者がいたとして、こんな不確実な方法をとったのはなぜだ。怪我をさせるのが目的だったのか?
「わからない。だが必ず報いを受けさせる」
「見て、見て! あたしかわいい?」
ミッチェルの前でルカはくるりと回ってみせた。
ルカの頭ごしに目が合うと、彼は困ったように小さく笑った。
「ああ、かわいいよ。妖精みたいだ」
ルカは何度も飛び跳ねて、ピンクのリボンで縛られたポニーテールを揺らしてみせた。
「シアがしてくれたんだよ」
ルカは子どもらしい軽やかな笑い声をあげながら、新たな自慢相手を求めて駆けていった。
「よほど嬉しいんだな。かわいいかと三度もきかれたよ。次に尋ねれたら、もう例えるものが思いつかない」
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