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「ベン!」
彼は馬の蹄鉄を調べているところだった。顔をあげた彼が一瞬ミッチェルに見えて足を止めた。
当然でしょ、彼らは双子なのだから。だがどこにいても、何をしていても彼のことを考えてしまう。完全なる恋わずらいの症状だ。
「シア? 大丈夫か、顔色が悪い」
気がつけばベンが顔を覗き込んでいた。
「大丈夫、なんでもない」
ベンは眉根を寄せている。
「何があったんだ? おれのことを見て…いや、いい。いつもの場所で休んでろ」
それからロイのほうを向いて付け足した。
「シアの面倒をみといてくれ。おれも少ししたら行くから」
ルシアが草原に腰を下ろすまでベンはずっと見守っていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
草の甘い匂いがする。ごろりと寝そべると視界は雲なんて知らない青い空でいっぱいになる。
「あなたも横になったら?」
おずおずと寝転んだロイは顔を捻って厩のほうを窺っている。
「彼はミッチェルじゃないわよ。彼らは双子なの。でも不思議よね。どうして双子ってよく似てるのかな? 私なんてほんの少しで酔っ払っちゃうのに、二人ともアルコールを水みたいに飲んじゃうし、どっちも女好きでしょ。ミッチェルもベンも初めて会ったとき、私のスカートに手を入れようとしたし―」
「あんたはおれたちよりも、おれたちのことを知ってるみたいだな」
大きな影に覆われ、驚いて身を起こした。
「本当はもっと聞いていようかとも思ったんだが、何を言われるかわかったもんじゃないからな」
ベンは隣に寝そべって腕枕をしてからルシアを探るように見上げた。
「具合はよくなったのか?」
「もともと悪くなんかないもの」
もう一度、寝転がってあおいぬくもりを取り込もうとした。
「兄に何かされたのか?」
「何もされてなんかない。いえ、そんなことないわね。とてもよくしてもらってる」
「おれに気を遣う必要はないんだ。言いたいこと言っちまえよ。いびきがうるさくて眠れないとか、場所も考えずに触ってくるんだとか」
ルシアは笑い声を上げた。
「彼はいびきなんかかかないわ。それに触れられるのが嫌だとしてもあなたには言わない」
ベンが口角をあげてしんみりと言った。
「よかった。いつものあんただ」
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