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「…はい」
ベンが身を起こしたのに合わせてルシアたちも起き上がった。
ベンはロイの目をじっと見つめている。
「さっき見たときは見間違いかと思ったが、色が違うんだな」
ロイは身をすくめて顔を背けた。
「ベン!」
「醜いんです、僕の目は」
「誰がそんなこと言った? おれは違いを指摘しただけだ、醜いなんて言っていない」
「言わなくてもわかります。そう思っているんでしょう」
「おれがどう言ったところで、おまえがそう思ってるんなら同じことだ―だが、言うとすれば綺麗だとおれは思う。シアにも同じことを言われたんじゃないのか」
「ええ。でもシアはお優しい―」
「おれは相手の機嫌取りのために嘘を言ったりしない―シアがそうだというわけじゃないが―おれは本当に思ったことしか口にしない」
ルシアは黙って思案しているロイを見つめた。その目は長いまつげが被さっていても、紺碧の空と緑に萌える草並みのようにお互いを引き立てあっている。
考える材料は十分に与えた。じっくり考えればいい。答えは自分で見つけるしかないのだから。
ベンを振りかえって首をかしげた。
「今日の仕事は終わったの?」
ベンは肩をすくめた。
「おれの仕事に終わりはないさ。生き物相手だからな。だが今はいいんだ、あいつらよりもあんたのほうがおれを必要としていたから」
「いつも馬と比べられるのに怒りがわいてこないのはなぜかしらね」
ベンは片方の口角だけをあげて皮肉な笑みを形作った。
「おれが魅力的な男だからかな」
鼻を鳴らしてその言葉に対する気持ちを表してから、ベンに抱きついた。
ベンは変わった。冗談を言うようになったし前よりも表情が明るくなった。目に見えて状況がよくなったと感じられるのは嬉しいものだ。
「ありがと、ベン」
ベンは身を強張らせたがそれも一瞬のことだった。おずおずと腕を回されて抱き返されると、初めて抱きしめられたときのように自然のにおいがした。
「やっぱりあんた、変だ」
自然に顔がほころんだ。
「人は常に変わるものなの。今日の私が昨日の私と違うからといって変だとは限らないわ。その変化は好ましいものかもしれないし」
ベンがそっとルシアを押しやった。
「それは誰に対する言葉かな。なぜか人事には思えないんだが」
彼の膝をぽんぽんと叩いて髪を揺らすいたずらな風を楽しんだ。
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