第3章

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 「さあね。明日、また乗馬を教えてくれる?」  「昼飯つきか?」  「またクッキーを焼いてくるわ」  「よし、取引成立だ」    ミッチェルは痺れを切らして自室を出た。夜はいつも一緒にすごしているのに、日が沈んでからずいぶん経ってもルシアはやってこなかった。おおかた店の計画でも練っていて時間を忘れているのだろう。王である自分が自ら女を出向くことになろうとは、昔の自分は想像だにしなかった。  わたしも落ちたものだな。ミッチェルは自嘲気味に口角をあげた。  いっそのこと恋わずらいの男のように何か贈り物でもしようか。ルシアはほかの女とは違うから、値段の張るものを贈ったとしても感謝はすれど喜びはしないだろう。  顎をなでながら思案していると、前方に痩せたロイの姿が目に入った。下を向いて急ぎ足で進んでいく目的を持った歩みに、ミッチェルの好奇心が刺激された。  ロイは大人とはいえない。だが子どもでもない。わたしが十六のころにはすでに女の味を知っていた。  ロイの気に入った女は誰なのだろう? その女によって彼の自信がつくなら願ったり叶ったりだが、大人といえないまでもハーレム内を自由に歩き回らせるのは正しいことではない。ルシアに現を抜かしてすべきことをしないでいたが、ロイのことは早々に何とかしなくては。  ロイは何かを考え込んでいるのか彼があとをつけていることに気づく気配はない。ようやく足を止めた部屋は、彼の目的地だった。  ドアの前でロイはしばらく自分のつま先を見つめていたが、ようやく意をけっして拳に握った手の甲を数回ドアに打ちつけた。  「どうぞ」  ルシアの声が誘うようにドアの向こうから聞こえた。  ロイがためらっているとルシアの淡い色の頭がドアの隙間からのぞき、ロイを視界に捉えると驚いた様子もなく手を引いて部屋の中に消えた。  ミッチェルはルシアの部屋のドアにもたれかかって、中の様子に耳を澄ませた。  「待ってたのよ」 ルシアの穏やかな声が聞こえる。  「あの、僕…」  緊張しきったロイの声が途切れ、ベッドがきしむ音がする。  「とりあえず座ったら?」  もう一度ベッドがきしむ音がして、ロイも腰を下ろしたことがわかった。  二人は何をするつもりなんだ? 体を重ねるつもりだとは思わないが、だとするとミッチェルには見当がつかなかった。そもそもルシアのすることを予測できたことがあったか?
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