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「捨てられたんじゃない。あなたが親を捨てたの」
ロイがゆっくりと息を吸い込み吐き出した。
「シアは外に出るときはいつも髪を隠してますよね」
「ミッチェルが目立つからって」
「僕の目、シアはどっちがより…美しいと思いますか?」
「そうね。あえて言えば緑かな。夏の日差しに包まれた若草のように鮮やかな色をしてる」
「じゃあ、青いほうを隠すことにします」
「えっ?」
「店で働くなら僕の目もシアと同じように隠さないと。だってみんなを羨ましがらせたら悪いから」
「…そうね。じゃあ一緒にお店の計画を練りましょ。私、テラスを作りたいんだけど、どう思う?」
「それはいい考えですね。店には植物を置くっていうのは―」
ミッチェルはそっとドアから離れると、静かにルシアの部屋をあとにした。
一晩くらいルシアをロイに譲ってやろう。彼女はいつだってわたしのそばにいるのだから。
「腹帯はちゃんと締めろよ。それから―」
「わかってるから。ベン、もう仕事に戻って。私が十分、一人で乗れるのは知ってるでしょ」
ベンはまだそばにいて立ち去りがたそうにしている。
「慣れたころが一番危ないんだ。注意散漫になる。やっぱり、おれの仕事が終わるまで待ってろ。そうしたらそばで見ていてやれる」
「えー。あなたの仕事に終わりはないんじゃなかった?」
ベンが眉根を寄せた。
「揚げ足をとるな。あんたを見張る時間くらい取れる」
「ちゃんとやり方は覚えてる。あなたと違って若いから覚えはいいの。さあ、みんな待ってるわよ。早く行ってあげなさい」
あと一押し。
ぎゅっと眉根を寄せて告げる。
「何と言われても私は乗るから」
ベンはしぶしぶ背を向けたがすぐにこちらを振り返った。
「いいか、ギャロップはするんじゃないぞ」
「ベン」
ため息と共に言葉を吐き出した。
「わかった。サミュエル! しっかり見張ってるんだぞ!」
ようやくベンは自分の仕事場へと戻っていった。頭を振りながらベンを見送り、ルシアは愛馬スターに向き直った。
「最近どんどんミッチェルに似てきたと思わない?」
スターは返事をするように小さくいなないた。
なめらかな茶色の鼻面を撫でてやる。
「あなたも早く走りたいのよね」
慣れた手つきで乗馬の準備を終え、スターにまたがった。
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