第3章

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 「捨てられたんじゃない。あなたが親を捨てたの」  ロイがゆっくりと息を吸い込み吐き出した。 「シアは外に出るときはいつも髪を隠してますよね」  「ミッチェルが目立つからって」  「僕の目、シアはどっちがより…美しいと思いますか?」  「そうね。あえて言えば緑かな。夏の日差しに包まれた若草のように鮮やかな色をしてる」  「じゃあ、青いほうを隠すことにします」  「えっ?」  「店で働くなら僕の目もシアと同じように隠さないと。だってみんなを羨ましがらせたら悪いから」  「…そうね。じゃあ一緒にお店の計画を練りましょ。私、テラスを作りたいんだけど、どう思う?」  「それはいい考えですね。店には植物を置くっていうのは―」  ミッチェルはそっとドアから離れると、静かにルシアの部屋をあとにした。  一晩くらいルシアをロイに譲ってやろう。彼女はいつだってわたしのそばにいるのだから。  「腹帯はちゃんと締めろよ。それから―」  「わかってるから。ベン、もう仕事に戻って。私が十分、一人で乗れるのは知ってるでしょ」  ベンはまだそばにいて立ち去りがたそうにしている。 「慣れたころが一番危ないんだ。注意散漫になる。やっぱり、おれの仕事が終わるまで待ってろ。そうしたらそばで見ていてやれる」  「えー。あなたの仕事に終わりはないんじゃなかった?」  ベンが眉根を寄せた。 「揚げ足をとるな。あんたを見張る時間くらい取れる」  「ちゃんとやり方は覚えてる。あなたと違って若いから覚えはいいの。さあ、みんな待ってるわよ。早く行ってあげなさい」  あと一押し。  ぎゅっと眉根を寄せて告げる。 「何と言われても私は乗るから」  ベンはしぶしぶ背を向けたがすぐにこちらを振り返った。 「いいか、ギャロップはするんじゃないぞ」  「ベン」  ため息と共に言葉を吐き出した。  「わかった。サミュエル! しっかり見張ってるんだぞ!」  ようやくベンは自分の仕事場へと戻っていった。頭を振りながらベンを見送り、ルシアは愛馬スターに向き直った。 「最近どんどんミッチェルに似てきたと思わない?」  スターは返事をするように小さくいなないた。  なめらかな茶色の鼻面を撫でてやる。 「あなたも早く走りたいのよね」  慣れた手つきで乗馬の準備を終え、スターにまたがった。
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