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「は、はい。私は、その、詳しいことはわかりません。ですが、それほどひどくは…ないかと」
男の言葉は尻すぼみに終わった。
男の途切れ途切れの言葉を口を挟まずに聞くには、平常心を総動員しなければならなかった。
だが怯えた相手をさらに脅しても結果が得られないのは経験から知っている。
ずっと歯を食いしばっていたので、砕けていないのが不思議なくらいだ。
「本当だろうな? もしおまえが言ったのと少しでも違ったら、首の骨をへし折ってやるからな」
男は目を見開きおろおろと後ずさり始めた。
「いえ、あの、多分…」
ほら見ろ。言わんこっちゃない。
「どこだ?」
「えっ?」
誰がこの能無しをよこしたんだ。
「ルシアはどこだと聞いている!」
「ここだ」
ドアが開き、ルシアを腕に抱えた自分そっくりの人物が入ってきた。
「ルシア! 大丈夫なのか?」
「平気。ちょっと馬から落ちただけ」
「馬から落ちるのにちょっともいっぱいもあるか。落馬は落馬だ」
ベネディクトが眉をひそめた。
「そんな言い方しないで、ベン。ほんとよ、ミッチェル。足を捻っただけだからすぐに良くなるって、お医者様が」
宙に浮いたルシアの左足首を見ると真新しい包帯が巻かれている。
「今回はたまたま運が良かっただけだ。首の骨を折っていたら今頃は地面の下だぞ」
ベネディクトの言葉に吐き気がしてきた。
運が悪ければルシアは死んでいた。
「ルシアを渡せ、ベネディクト。それからその男を追い出せ」
ルシアを腕に抱くと、欠けてたものが戻ってきたという安心感に襲われた。
「あの人にあたることなかったのに」
「聞いていたのか? あいつが悪いんだ。大事なことをさっさと言わないから」
「部屋の前で待ってたの。ベンが先に伝えてから会ったほうがいいって言うから…彼には悪いけど、すごく嬉しかった。私のことを心配してくれて」
ルシアのほっそりとした手が頬に触れる。
「当然だろう。おまえが事故に遭ったと聞いて、心配で気が狂いそうだった」
「ミッチェル…」
目を閉じたルシアにゆっくりと顔を近づけていく。
咳払いの音でルシアはぱっと彼の頬を手で挟んでとめた。
「おれのことを忘れてるんじゃないかと思ってな」
ルシアの表情を見て、彼は諦めて顔を引きベネディクトをにらみつけた。
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