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この野蛮人にはうんざりだし、わけのわからない茶番劇にもうんざりだ。
「いい加減にして! 私は噴水で溺れた。足がつこうがつかまいが、事実、私は窒息しかけたの。必死で手探りして掴んでみたらそれがたまたま彼の腕で、彼は私を見ると女みたいな悲鳴を上げて、ぶっ倒れた―そうでしょ!」
さっきの少年を指差して叫んだ。
少年はその剣幕に驚き、急いで頷くのを繰り返した。その様子はまるで壊れたくるみ割り人形だ。
腰に手を当てて筋肉馬鹿をねめつけた。文句があるなら言ってみなさいよ、ただしそれ相応の覚悟はしておきなさいという表情を浮かべて。
彼は神妙な顔つきで私を上から下まで眺めた。
「いいだろう。おまえがもし、本当に聖なる泉から現れたというのなら…」
彼は俯き、ぶつぶつと伝説がどうのと呟いていた。
彼の頭を悩ませておきたいのは山々だが、私だってこんな夢の世界とは早くおさらばしたい。
「ねえ、そんなに考えたら知恵熱が出ちゃうわよ。心配しないで。私がもう一度眠れば万事解決だから」
彼はその心優しい申し出を無視した。さらに何か呟いてから顔を上げ、石畳に寝転んだ私に頭の弱い相手に向けるのと同じ表情をして背を向けた。むっとしたのも束の間、彼は伊達男に声をかけた。
「馬車に乗せろ」
決意を秘めた伊達男の目に見つめられ、私は身を起こした。だが逃れる暇はなかったし、場所もなかった。後ろは噴水が、周りは観衆が逃げ場をふさいでいたのだから。
「放して! やだっ、助けて、助けて―きゃっ」
男に担ぎ上げられ、土のうか何かのように投げ捨てられるのは気分がいいものではない。あれほどいた観衆は誰も彼もが、ただ私が連れ去られるのを見ていただけだった。裏切り者! いい余興を披露してやったのに。
馬車の中は狭くはなかったが、大きな男二人が目の前に座って威圧してくるのだから、お世辞にも広いとはいえないし乗り心地も悪い。腹立ち紛れに、しみひとつない座席を濡らしてやることにした。しっかりと座席にもたれ、さらにスカートを広げて、布地を座席に押し付ける。
筋肉馬鹿はと見ると、その様子を眉をひそめてじっと見つめていた。いい気味だ。汚されるのが気に食わないのだろう。私は知らんぷりして外を眺めた。
そのうち男の手が太ももを這い、さらに上へ―。
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