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ハッと目を開くと、琥珀色の瞳がもの問いたげに顔を覗き込んでいた。慌てて顔を上げるとゴツンと音がして星が瞬いた。
悪態をつく声が聞こえ、そろそろと目を開けると星はなくなった。
「なんて頭の固い女だ」
ミッチェルは額をさすっていた。ムスッとして言う。
「着いた」
確かに景色が変わっていた。小さな家はない。あるのは砂漠の国に付き物の、大きな玉ねぎ形のドームがのった宮殿だった。近すぎて小さな窓からでは全てを見ることは出来ないが、この中に彼の住まいがあるのだろう。
たぶん王に仕える下っ端の下っ端の下っ端の下っ端…。
「はやく降りろ」
先に降りたミッチェルが苛立たしそうに振り返っていた。 少なくとも尊大さだけは王に引けをとってない。
大人しく従うのは癪だからそろそろと出口に進んだ。飛び降りようと身構えると、ミッチェルが腰を掴んで降ろしてくれた。
予想に反した紳士的な行為に目を丸くした。
「ありがとう」
ミッチェルは眉を上げチラッと私を見下ろした。
「当然のことだ―おまえの国の男は手を貸さないのか?」
「ええ。だって自分で出来るもの」
ミッチェルは私の腕を掴み、入り口へと急き立てた。
「おまえなら出来るだろうな。だがここでは、自分の所有物は大事にする」
私はあなたのものじゃないと言ってやりたかった。だが宮殿に入ると「お帰りなさいませ、陛下」とか「お疲れでしょう、ご主人様」などと通り過ぎる人に声をかけられるものだから、機会を逃してしまった。いまさら言ったところで、彼はもう自分の言ったことを覚えていないだろうし、本当に王なのだと信じ始めている自分を慰めるのに忙しかった。
彼の長い足についていくのに息が上がっていた。腕を引っ張られているから、足を止めれば引きずられるかもしれない。彼ならやりかねない。その思いを胸に必死に脚を動かした。ずっと真っ直ぐ進んでいたがようやく彼が方向を変え、景色にも変化が訪れた。色とりどりの花が咲き誇る開けた庭に出て、ミッチェルが歩みを緩めた。
「これからおまえが暮らすところだ」
プールのようなものがあって、中で女たちが優雅に泳いでいた―何も身に着けずに。ベンチに座っておしゃべりしている女も、草地に横たわって日光浴している女も、着ているのはビキニに透けた薄っぺらな布地を羽織っているだけだ。これはおかしい、公然わいせつ罪で訴えるべきだ。
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