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「こんな庭で野宿するの?」
ミッチェルは面白くないぞとねめつけてきた。上等だ、私だって面白くもなんともない。
「いや、おまえには部屋を与える」
「なんてお優しいこと」
ミッチェルがまた腕を引っ張り始めた。庭を抜けると、そこはホールのような広い部屋で、また多くの女がくつろいでいた。部屋の入り口には男が二人見張りとして立っていたが、ミッチェルが通りかかると頭を下げた。女は彼に気づくと媚びるようにまつげをはためかせて瞬きした。一斉に皆が瞬くものだから、風がおきないのが不思議なくらいだ。
「ハーレムみたいね」
「みたいじゃない。わたしのハーレムだ」
女が手癖の悪い男に向ける殺人レーザーのような視線を彼に向けた。ここにいる女たちは彼のベッドを暖めるためだけにいるのだ。
「へえ。それって自慢すること?」
「当然だろう、高貴さの象徴だ」
私は鼻を鳴らした。まったくもって馬鹿馬鹿しい。
「じゃあ、彼らは宦官なのね。あなたのおん―所有物を守るためにいる」
見張りの男のほうに手を振った。
「カンガン?」
ミッチェルはわけがわからないという顔をした。あまりにも真に迫っているので本当に彼は知らないのかと思った。
「ふざけるのはよしてよ。彼らにはアレがないんでしょ?」
「何のことだ、アレとは?」
眉をひそめた。嘘をついているとは思えない。いや、からかっているのだろう。
「もういいわ」
手を振ってその話を終わりにしようとした。
彼は手首を掴んで顔を覗き込んできた。
「何のことだ?」
しつこいったらありゃしない。答えを得るまで放さないつもりだ。
「つまり、彼らには、あー…」
それとなくほのめかす方法はないかと思案した。
「何だ、早く言え」
もういい加減にしてよ。
「だから―去勢されてるんでしょ!」
ホールはその機能を十分に果たした。声は端から端まで響き渡り、聞こえなかった者はいないはずだ。
顔がかっと熱くなった。女たちは瞬きをやめ、じっとこちらを見つめていた。見張りの男はぎょっとした顔をして、自分の股間を守るように手で覆っていた。
「神が与え給うたものを粗末にするのは罪だ。おまえの国ではそうするのか?」
ミッチェルは頭を振り、恐ろしそうに口元を歪めていた。
それならこのハーレムは安全じゃない。彼らが立ち向かうべきは外から来る敵ではなく、己の欲望自身なのだから。
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