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機内食のオレンジジュースが爆発した。
それはバスの中で、ぽんっ、という軽い音とともに我らの笑いを誘った。
「オレンジジュースが爆発したんだ、と冗談半分で言ったのに本当に爆発するなんて
と目に涙を浮かべけらけらと笑う沖田。高校の同級生で、僕は彼に全幅の信頼を置いている。人を魅了するカリスマ性を持ちながら、何にも甘んずることなく謙虚に努力する姿勢は、誰からも信頼を集めた。自分にも相手にも正直で、素直だ。変な言動も目立つが、それも彼の魅力の一部となっている。変だけどすごい奴。これを天才というのかな。そんな彼の誘いを受け来たのが、この旅行だ。正直、なぜ自分のように何の取り柄もない、平々凡々な野郎と親しくしてくれるのかわからない。
「ん?なんだこれ、うわまっずい、総司も飲んでみろ」
彼の魅力に浸っていたのに、猛烈な異臭で現実に引き戻された。それは、牛乳が発酵し腐ったような、嫌悪感を感じる臭いだった。
「オレンジジュースはこんな臭いしないだろ
「だよな、俺もそう思う。まぁとりあえず、飲んでみろ」
抵抗はあったが、飲めというので飲んでみる。すると、口の中にぴりぴりとした感覚が走った。
「え、炭酸になってる
「このオレンジジュース、炭酸だったのか?
「しかも臭いな、オレンジの香りがしない。あ、待て、そう言えば僕もそれと同じもの飛行機から持ってきたよ。飲んでみよう」
銀の蓋を爪先ほどの隙間くらい剥がし、ごくりと飲む。口の中にじりっと酸味を感じる。
「炭酸じゃないよ、臭いも普通だ。」
「どれ」
沖田が僕のオレンジジュースを飲む。
「普通だ」
と言って、二人して馬鹿笑いする。沖田のこぼれ落ちそうなくらい大きな瞳が、しつけ糸くらいに細められている。
「やっぱり、総司と旅行に来て良かった」
「え」
突然の言葉に心臓が跳ね上がる。
「お前といると、奇跡が起きるんだ。不思議なくらい。偶然にしては出来すぎているような、面白いことが必ず起こる。だから一緒に旅行に来たかった。総司と」
実は僕も感じていた。沖田といると、奇跡が起きると。そう、どれもが奇跡だ。ありえない、起きるはずのない出来事が、なぜか沖田といると、起きる。
「イエスキリストでも起こせないような奇跡を、お前となら起こせる気がするな。この旅行で俺は、あらゆる液体を微炭酸に変える能力に目覚めたかもしれない」
「…そうかもなぁ」
夕日が眩しい。
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