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「あっ、大丈夫です」
それが私の第一声で、さっきスーパーで買った荷物の行方が脳裏に浮かんだ。
だけど私より先に、その人が階段を下りて散らばった荷物を拾ってくれた。
案の定、炭酸飲料水のペットボトルは階段を転げ落ちて一段目から恨めしそうに見上げてる。
それを私に手渡しながら「すみません。ジュース、弁償します」と言った。その人の細い指先が触れた。
「いいえ。炭酸はいつも振って飲んでいますから」
弁償する程でもないと思い、ちょっとした冗談のつもりで断ったはずだったのに、彼は「はぁ」とだけ言った。苦笑いもしなかった。
我ながらくだらないことを言ってしまったってその反応から反省してしまう。
その人の少し長めの黒髪は片目を隠していたから、左の細いつり目だけが見えた。
なんだか狂犬みたい。睨まれたら少し恐いかも。
それに細い体のライン。なんだか抱きしめたら壊れてしまいそうな人。
猫の次は腹ペコなノラ犬に出会った気がした。
小さなお辞儀をして別れた。
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