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異様な気を感じ、私は少し警戒してしまう。
そして、振り返った人物は私を真っ直ぐに見据えている。
その人物は外套を身に纏っているが、フードは被っていなかった。
その人物は男性で端整な顔立ちをしていた。
灰色の髪をなでつけた額は広く、色素の薄い黄緑色の瞳は知的で、物静かな空気を漂わせている。
その佇まいだけで、その人物はかなり地位の高いひとだろうと察することができた。
「あっ、あの……お邪魔してしまってすみません」
私が戸惑いがちに声を掛けると、品のよい外套に身を包んだ男性は、静かに首を振った。
「そのようなことないですよ」
男性の端整な顔立ちに、優しげな微笑みが浮かぶ。
先ほどまで感じていた異様な気は嘘のように消えていた。
何だったのだろうか?
不思議に思っていると、男性の肩に緑色のものが乗っかっていた。
何だろうと思いつつ、私はつい無意識に手を伸ばしていた。
その姿に、男性の眉がピクリと反応した気がしたが、
「あ!葉っぱだったんですね。肩に小さな葉っぱがついてましたよ」
男性の肩に小さな葉っぱが乗っていたのだと分かり、私は笑いながら小さな葉っぱを男性に見せる。
少し虫だと思ってヒヤヒヤしていた自分がいた。
その様子にきょとんとしながら、私を見つめている男性。
「虫じゃなくて良かったですね」
ふふ、と笑いながら告げると目の前の男性はハッとなっていた。
そして、私のその様子を見て、男性はクスクスと笑う。
上品な雰囲気を纏う男性が楽しそうに笑っている姿は見惚れてしまいそうだ。
でも、何でそんなに笑っているんだろう?
と、不思議に思いながら私は男性を見つめていた。
「申し訳ありません。貴方のその姿があまりにも可愛くてつい笑ってしまいました」
優しく微笑むその男性に思わず胸がドキドキと強く脈打つ。
顔が赤くなっていないか心配になった。
「では、僕は失礼しますね」
そう言ってこちらに会釈し、フードを被る男性。
私も会釈し、男性の背中を見送る。
怖いひとだったらどうしようと思っていたが、優しそうなひとで良かった。
それから、神殿には私一人となり、祭壇に向き直る。
ここには神官もいない。
祈り子様はここにはいないのだろうか。
この国は神や祈り子様を祀ったりしなさそうだ。
信じるひとは少なそうな気がした。
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