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祭壇に体を向け、私は静かに手を合わせるようにした。
静かな空間が漂う。
私は声に導かれてここへ来たのだ。
忘れ去られたかのような神殿。
それでも、私は心が浄化されるような気持ちになった。
「ルナ、来てくれてありがとう」
不意にたまに聞こえてくる女の子の声がした。
頭の中にではなく、耳から聞こえてくる声。
そう、あの時の大神殿にいた祈り子様の声。
姿形は見えないが、声が聞こえてくる。
「祈り子様……」
私は手を合わせながら祭壇を見つめた。
あの時から側で守ってくれているような感覚があった。
どうして、私を守ってくれているのか分からない。
私は聖女ではないのにーー
「ルナ、この国にはもうほとんど加護がないの。ーー神殿には微弱な神力しか残ってないから、あたしの姿は見えないの」
悲しげな声だった。
「ルナと遊びたかったのにぃ。……でもね、ルナに喜んでもらいたくて、あたし頑張ったのよ」
残念そうな声から明るい口調に変わり、嬉しそうに告げる祈り子様の声に、私は可愛らしいと思い、クスクスと笑う。
「ルナの大切なひとたちの声を聞かせたくてここに来てもらったの」
嬉しそうに笑いながら告げる祈り子様の言葉に私は小首を傾げるようにした。
私の、大切なひとたち?
そう思っていると、突然淡い光が浮遊していた。
温かい淡い光。
綺麗だと目を奪われているとーー
(瑠菜っ、どうか無事いてほしい)
聞き覚えのある声。
これはーーノアリス様?
(瑠菜……待っててね)
ライラ?
(必ず)
その声にハッとなる。
(必ず助けるっ)
その力強い声に私は思わず心が震えた。
ーーカイさんだ。
ノアリス様、ライラ、カイさんが私のことを思ってくれていた。
それだけで嬉しかった。
久しぶりに声が聞けた。
それだけでとても胸が熱くなる。
「ルナ~嬉しい?」
嬉しそうに聞いてくる祈り子様の声に私は感動で泣きそうになるのを堪えながら、
「とても……とても嬉しいです。ありがとうございます」
感謝の言葉を述べた。
「それでね、ルナには聞いてほしいことがあるの。ーーこの国はもうじき邪悪なものたちによって滅ぼされちゃうの」
真剣な声で告げる祈り子様の言葉に私は耳を疑った。
この国が滅ぼされる?
そのような感じはしないがーー
「この国の加護がもうないから。あたしたちの力も全然使えないし……ルナを助けられるのは一度だけなの」
言葉を続ける祈り子様。
「チャンスは今日の夜。あたしが合図を出したらここまで逃げてきてね」
祈り子様の言葉を呆然と聞いていた。
まだ理解が出来ていない。
だってーー
本当にそのようなこと起こるのだろうか?
「約束だからね」
その声を最後に祈り子様の声はしなくなった。
ーーそれが本当ならこの国は危ない。
だけど、私にはどうすることも出来ない。
それに、ここから抜け出せるチャンスだ。
それを私は狙っていたのだからーーー
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