第1章

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ここでの生活が一ヶ月過ぎ、私の噂はあっという間に広まっていた。 伝説の聖女がいるとーー 私が街を出て歩けば、 「聖女様、どうかこの国に幸運をーー」 「ああっ!聖女様!」 と手を合わせながら私を拝む人々。 私は笑いながら手を振るが、いたたまれない。 私には何の力もないのだから。 「しっかり歩け」 隣を歩く金髪の青年カイさんが凛とした低めの声で言う。 彼の横顔からは全く表情が読み取れない。 一ヶ月も経ったのに、未だに彼のことが掴めない。 「第一部隊のカイ様よ!」 「本当に素敵なお方」 女性からの熱い支持があることは分かった。 そして彼がこの国の最強騎士であることも。 「カイ様、私とお食事でも」 「いえ、わたくしよ!」 カイさんの近くに集まる女性たちに私は少しだけその場から離れる。 本当にモテるひと。 「いえ、申し訳ないです。また今度にしてもらえますか?」 そう丁寧に断るカイさんは、いつもと違う。 私に接する態度とはまるで違うのだ。 私にはいつも冷たいくせに。 丁寧に断りながら優しく微笑むカイさんに私は胸が痛くなった。 私を守ることを命じられているのか、カイさんは仕方なく私と一緒にいるのだろう。 私には微笑んでもくれないくせに。 ズキリと胸が締め付けられ、私は静かにその場から遠ざかる。 建物に隠れながらその様子をコッソリと見守る。 私が突然いなくなったらどんな顔をするだろうか。 きっと私なんかいなくなったって心配なんてしない。 私のこと嫌いだから、清々するかもしれない。 王様に怒られれば良いんだ! さーて、どんな顔をするかな? それから、女性たちに別れを告げカイさんが私がいないことに気がつく。 キョロキョロと辺りを見回し、恐らく私を探しているようだ。 彼の無表情の顔。 私を見つけられない彼の表情は少しだけ切なげに、そして焦った表情に変わっていた。 辺りをキョロキョロと見回しながら探すカイさんはいつもと違う。 こんな表情は初めて見る。 どうしてか、胸が締め付けられるほど苦しくなった。 「...カイさん」 私はそんな彼の前に出て、名前を呼んだ。 焦りながら私を探していたカイさんの瞳が軽く見開く。 いつも涼しげな態度の彼の額には汗が滲んでいる。 「勝手にいなくならないでくれ」 そう涼しげな口調で言うが、ほんの少し息が切れていた。
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