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男は女の片腕を掴んで、女が走り去ってしまう前に阻止した。
『ユミ……』
『もう私に構わないで、タツミさん……』
男はタツミというらしい。因みに、女はユミ。
ユミは後ろを振り返らずに、タツミに聞こえる声量で話始めた。その声は震えていて、泣いているのだと解った。
『私、知ってるのよ。タツミさんには婚約者がいて、もうすぐ結婚するんでしょう……』
『どうしてそれを……!?』
『どうして? この前、タツミさんがその婚約者の彼女と寄り添っている姿を見たんだから……っ』
『あれは……!』
『言い訳なんてもういらないわ! どうして婚約者がいること教えてくれなかったの。知っていたらこんなに期待抱かなかったのに……っ』
『ユミ……』
ユミは静かに泣いた。声を押し殺して、背後にいるタツミに見られないように涙を流す自分の顔を隠した。
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