3.2.梃子

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 棒は次から次へと場所を変えて差し込まれ、持ち上げられ、その度ごとに廃墟が動いていく。  真っ直ぐだった廃墟が徐々に傾いていく。どこかから動きが早くなる。壁の一部が崩れ落ち、紐が外れる。  と、突然、廃墟に亀裂が入り、そこから分かれるように倒れ出す。亀裂はすぐに数を増やし、壁の一部は地面に落ちていく。  合図の音が鳴らされた。  限界を超えた廃墟は一気に崩壊した。大きな壁がそのままゆっくりと崖に向かって倒れ、遥か下の堀に向かって落ちていく。残された部分も見る見るうちに崩れていく。激しい音に続いて土煙が舞い上がった。  合図を送っていた男のあたりも土煙にまみれていた。 「ひどいな」  赤い髪の若者は服の裾で口と鼻を覆っていた。  合図を送り続けていた男は、赤い髪の若者には目もくれず崩れ落ちた廃墟に群がる男たちをじっと見つめていた。 「進み具合はどう?」  赤い髪の若者は布を取り出して目のあたりを拭いながら言った。  男はまた大きな箱を叩いた。廃墟から瓦礫を運び出す男たちが足を止め、男に向けてこぶしを突き上げる。男もそれに答える。 「ちょっと、聞いてんだけど」  赤い髪の若者はイライラした口調で言った。 「名前は気に入っている」  男は若者を見ずに言った。 「はあ?」  若者は顔をゆがめた。 「死んだ後に何が残るとか残らないとか、そんなことはどうでもいい。死んだ後のことを考えるのは馬鹿げた話だ」  瓦礫を崖から落とした男たちは振り向き、男に手を振る。男もひとりひとりに手を振って答えている。 「名前が気に入ったのは、死んだ後がどうこうじゃない。それがオレだってことだ。オレは名前をもらった。オレには名前がある。だから、オレのことは名前で呼べ」  そう言うと男は顔を若者に向けた。 「わかったよ。赤い堀、あんたの手下の赤い男たちはそろそろ堀を埋められそうかい?」  若者は投げやりな感じだった。  赤い堀、と呼ばれた男は、また若者から目を逸らし、考え事でもしているかのように遠くを見つめた。  その視線の先には高く聳える宮殿の尖塔があった。  若者は赤い堀から顔をそむけ、小さく舌打ちをした。
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